【1株当たり情報】②潜在株式調整後1株当たり当期純利益

 はじめに、「潜在株式」とは、その保有者が普通株式を取得することができる権利若しくは普通株式への転換請求権又はこれらに準じる権利が付された証券又は契約をいい、例えば、ワラントや転換証券が含まれます。
  潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算定する目的は、将来の普通株式の価値算定に有用な情報を提供することや、潜在的な変動性を理解できるようにすることにあります。
 今回は、潜在株式調整後1株当たり当期純利益算定に必要な基本情報について解説していきます。

希薄化効果の有無の判定について

 潜在株式に係る権利の行使を仮定することにより算定した1株当たり当期純利益(潜在株式調整後1株当たり当期純利益)が1株当たり当期純利益を下回る場合に、当該潜在株式は希薄化効果を有するものと判断されます。

 つまり、希薄化効果を有するか否かの判定は下記の通りになります。

①1株当たり当期純利益>潜在株式調整後1株当たり当期純利益→希薄化効果あり
②1株当たり当期純利益<潜在株式調整後1株当たり当期純利益→希薄化効果なし

 なお、潜在株式が複数存在する場合は、最大希薄化効果を反映した潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算定します。

潜在株式の例示について

 適用指針17項において、潜在株式の例示として下記のものが記載されています。

(1)ワラントが存在する場合
(2)転換証券が存在する場合
(3)条件付き発行可能普通株式が存在する場合
(4)条件付発行可能潜在株式が存在する場合

 今回の解説では、(1)ワラントが存在する場合と、(2)転換証券が存在する場合について解説していきます。

ワラントが存在する場合

 ワラントとは、その保有者が普通株式を取得できる権利または、これに準ずる権利をいい、例えば、新株予約権があります。(基準10項)

 普通株式の期中平均株価がワラントの行使価格を上回る場合、当該ワラントが全て行使されたと仮定することにより算定した潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、1株当たり当期純利益を下回るため、この場合は希薄化効果を有することになります。(基準24項)。

 なお、ワラントの希薄化効果を反映させる方法として、自己株式方式を採用しています。自己株式方式とは、期中平均株価が行使価格を上回る場合、ワラントが行使されたと仮定し、また、行使による入金額は、自己株式の買受に用いたと仮定する考え方です。(基準56(2))

 したがって、ワラントが行使された場合の普通株式増加数は「新株予約権が期首又は発行時において全て行使された場合に発行される株式」から「新株予約権の行使により払い込まれる入金額を用いて期中平均株価にて普通株式を買い受けた場合の普通株式」を差し引いて算定します。

 ワラントの種類が新株予約権である場合には、潜在株式調整後一株当たり当期純利益算定の際に影響するのは、分母の株式数のみとなります。

転換証券が存在する場合

 転換証券とは、普通株式への転換請求権若しくはこれに準じる権利が付与された金融負債又は普通株式以外の株式をいい、例えば、一括法で処理されている新株予約権付社債や一定の取得請求権付株式が含まれます。(基準11項)

 1株当たり当期純利益が、転換証券に関する当期純利益調整額を普通株式増加数で除して算定した増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額を上回る場合に、当該転換証券が全て転換されたと仮定することにより算定した潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、1株当たり当期純利益を下回るため、当該転換証券は希薄化効果を有することとなります。(基準27項)

 なお、転換証券の希薄化効果を反映させる方法として、転換仮定方式が採用されています。これは、1株当たり当期純利益が転換証券に関する増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額を上回る場合、転換証券が期首に普通株式に転換されたと仮定する。この結果、転換証券は当期には存在しなかったものとみなす考え方である。(基準58(2))

 ここで、当期純利益の調整額とは、転換負債に係る当期の支払利息の金額や、社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合における当該差額に係る当期償却額及び利払いにかかる事務手数料等の費用の合計額から、当該金額に課税されたと仮定した場合の税額相当額を控除した金額があります。(基準29(1))

 つまり、当期純利益調整額の算定は下記のようになります。

当期純利益調整額=(社債利息+その他関連費用)×(1ー実効税率)

子会社又は関連会社の発行する潜在株式が存在する場合

 子会社又は関連会社(以下「子会社等」)の発行する子会社株式等の潜在株式に係る権利の行使を仮定することにより、親会社の持分比率が変動し、その結果、連結上の当期純利益が減少する場合、当該潜在株式は潜在株式調整後1株当たり利益を算定するにあたって考慮する必要があります。

 なお、子会社等が、親会社の普通株式に転換可能な潜在株式を発行し、その権利の行使を仮定することにより希薄化を有する場合には、連結上の潜在株式調整後の1株当たり当期純利益の算定に当たり、親会社の潜在株式に含めます。(適用指針33項)

ワラントが存在する場合の注意点

 希薄化効果を有するワラントは、未だに行使期間が開始していなくとも、普通株式の増加数算定上、既に行使期間が開始したものとして取り扱います

 したがって、いわゆるストック・オプションのうち、一定期間の勤務後に権利が確定するものも、希薄化効果を有する場合には、行使期間が開始していなくとも、普通株式増加数の算定上、付与された時点から既に行使期間が開始したものとして取り扱います。この場合、ストック・オプションの権利の行使により払いこまれると仮定された場合の入金額に、ストック・オプションの公正な評価額のうち、将来企業に提供されるサービスに係る分を含めることになります。(適用指針22項)

 なお、ストック・オプションの権利確定条件には、例えば、一定期間の勤務の他に、一定の利益水準や株価水準の達成が考えられます。前者のように、一定期間の勤務後に権利が確定する場合には、通常の新株予約権と同様に、行使期間が開始していなくとも、普通株式増加数算定上、付与された時点から既に行使期間が開始したものとして取り扱うこととなります。

 これに対して、後者のように、単に時の経過でなく、特定の利益水準や株価水準の達成などの条件が付されている場合には、条件付発行可能潜在株式として取り扱うこととなります。(適用指針53項)

 条件付発行可能普通株式、潜在株式の取り扱いについては、期末までにはその条件を満たさないが、期末を条件期間末としてときに、当該条件を満たす場合には、当期純利益調整額および、普通株式増加数を潜在株式調整後1株当たり当期純利益の計算に加えます。(適用指針29項,30項)

まとめ

 今回は潜在株式調整後1株当たり当期純利益の基本情報と、注意点について解説してきました。今回の解説には具体的な計算方法を記載していないため、イメージがわかないという方がいらっしゃいましたら、適用指針に設例が記載されていますので、そちらで具体的な金額を見ながらイメージしていただけると良いかと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。
【参考文献等】
■新日本監査法人HP:https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/other/2014-10-22.html

■1株当たり当期純利益に関する会計基準
■1株当たり当期純利益に関する会計基準適用指針

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公認会計士です。都内の監査法人に勤務しています。会計/監査/税務に関する情報を配信していきます。