繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産は、将来の課税所得を減額させることにより、将来の税負担を減額することが認められることを条件に資産計上が認められる資産である。この繰延税金資産の計上は、将来の課税所得を減少させ、税負担を軽減すると認められる範囲で計上が求められています。そのため、繰延税金資産の計上は将来減産一時差異のスケジューリングなどをもとに、慎重に計上する必要があります。今回は繰延税金資産の回収可能性について解説していこいうとおもいます。

(1)繰延税金資産回収可能性の判断に関する手続
(2)繰延税金資産回収可能性の判断要件について
(3)スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
(4)会社の分類ごとの繰延税金資産の回収可能性について
(5)将来の課税所得の見積りについて
(6)タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い
(7)まとめ

(1)繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手続

①スケジューリングの実施
→将来減算、将来加算一時差異の解消見込スケジューリングを行う。
②各解消見込年度ごとに将来減算、将来加算一時差異を相殺する。
③②で相殺しきれなかった将来減算一時差異に解消見込額については、解消見込年度を基準として、繰戻・繰越期間の将来加算一時(②で相殺後)の解消見込額と相殺する。
④①か③により相殺しきれなかった将来減算一時差異の解消見込額にいついては、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する。
⑤④で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(④で相殺後)と相殺する。
⑥上記により相殺しきれなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものと判断し、繰延税金資産から控除する。

(2)繰延税金資産の回収可能性の判断要件について

繰延税金資産の回収可能性は、下記の①から③に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかを判断する。

①収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
→将来減算一時差異の解消見込年度およびその解消見込年度を基準日として税務上欠損金の繰戻が認められる期間に、一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと認められるかどうか。

→税務上の繰越欠損金が生じた事業年度の翌期から繰越期限切れとなるまでの期間に、一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと認められるかどうか。

②タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
→将来減算一時差異の解消見込年度および繰戻・繰越期間又は繰延期間に、含み含み益のある固定資産又は有価証券を売却する等のタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか。

③将来加算一時差異
→将来減算一時差異の解消見込年度及び繰戻・繰越期間に、将来加算一時差異が解消されると見込まれるかどうか。
将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性を判断した結果、当該将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金が将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額と相殺され、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならないとされています。
繰延税金資産から控除すべき金額は毎期見直し、繰延税金資産の全部または一部が将来の税金負担額を軽減する効果を有さなくなったと判断された場合、計上していた繰延税金資産のうち回収可能性がない金額を取り崩します。

また、過年度に繰延税金資産から控除した金額を見直し、将来の税金負担額を軽減する効果を有することと判断された場合、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する。

(3)スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

スケジューリング不能な一時差異のうち、将来減算一時差異については、原則として、税務上の損金の算入時期が明確となった時点で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上します。

スケジューリング不能な一時差異のうち、将来加算一時差異については、将来減算一時差異の解消見込年度との対応ができないため、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたって、当該将来加算一時差異を将来減算一時差異と相殺することはできない。

(4)会社の分類ごとの繰延税金資産の回収可能性について

(1) (分類1)に該当する企業の取扱い

【要件】
①過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
②当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

【繰延税金資産の計上額】
繰延税金資産の全額(解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産も含む)について回収可能性があるものとします。
(2) (分類2)に該当する企業の取扱い

【要件】
① 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
②当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
③ 過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

【繰延税金資産の計上額】
・一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとします。
・解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産についても、回収可能性があるものと判断します。
・原則的に、(分類2)に該当する企業の場合、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産については回収可能性がないものとします。ただし、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとします。
(3) (分類3)に該当する企業の取扱い

【要件】
①過去(3 年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
②過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
なお、(1)における課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の値となる場合を含む。

【繰延税金資産の計上額】
・将来の合理的な見積期間(概ね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産(解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産を含む)は回収可能性があるものとします。
・ただし、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案した結果、回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとします。
(4) (分類4)に該当する企業の取扱い

【要件】
次のいずれかの要件を満たし、かつ翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は、(分類4)に該当します。

①過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている
②過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある
③当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる

【繰延税金資産の計上額】
・(分類4)に該当する企業の場合、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産(解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産を含む)は回収可能性があるものとします。

・ただし、(分類4)に該当する企業の場合でも、重要な税務上の欠損金が生じた要因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、(分類2)に該当する企業として取り扱います。

・また、上記(分類4)に該当する企業の場合で、重要な税務上の欠損金が生じた要因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、(分類3)に該当する企業として取り扱います。
(5) (分類5)に該当する企業の取扱い

【要件】
次の要件をいずれも満たす企業は、(分類 5)に該当する。
① 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。
②翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。

【繰延税金資産の計上額】
・過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じており、かつ、翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれている企業の場合、原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとして取り扱います。

・解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産に関しても同様に、原則として繰延税金資産の回収可能性がないものとして取扱います。
(6) 上記分類の要件をいずれも満たさない企業の取扱い

上記(分類1)から(分類5)までの要件をいずれも満たさないような企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいものと判断される分類へと区分することが定められています。

(5)将来の課税所得の見積りについて

繰延税金資産に計上額を見積もる場合、合理的な仮定に基づく業績予測によって、将来の課税所得又は税務上の欠損金を見積ることとなる。具体的には、適切な権限を有する機関の承認を得た業績予測の前提となった数値を、経営環境等の企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報(過去における中長期計画の達成状況、予算やその修正資料、業績評価の基礎データ、売上見込み、取締役会資料を含む。)と整合的に修正し、課税所得又は税務上の欠損金を見積る。なお、業績予測は、中長期計画、事業計画又は予算編成の一部等その呼称は問わないとされています。

(6)タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い

タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額により繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、資産の含み益等の実現可能性を考慮する。具体的には、当該資産の売却等に係る意思決定の有無、実行可能性及び売却される当該資産の含み益等に係る金額の妥当性を考慮する。

(7)まとめ

繰延税金資産の回収可能性の検討には、課税所得の十分性、タックス・プランニングの存在、将来加算一時差異について検討する必要がります。また、会社分類により、繰延税金資産の計上額の規定が異なります。そのため、繰延税金資産の回収可能性を検討する際は、会社の分類が適切に行われているかを確認し、その分類区分において計上できる繰延税金資産が計上されているかを確認することが重要です。また、機会があれば税効果会計関連の解説をしていきます。

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ABOUTこの記事をかいた人

公認会計士です。都内の監査法人に勤務しています。会計/監査/税務に関する情報を配信していきます。