株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成する開示書類です 今回は株主資本等変動計算書について解説していきます。 |
目次
(1)株主資本等変動計算書を記載すべき書類について
(2)純資産の区分について
(3)株主資本の各項目の記載方法
(4)会社法計算書類における株主資本等変動計算書の記載方法
(5)注記事項について
(6)計算書類と財務諸表の注記事項の相違点
(7)まとめ
(1)株主資本等変動計算書を記載すべき書類について
株主資本等変動計算書の作成が必要となる開示書類は以下の通りです。 ①金融商品取引法の連結財務諸表 ②金融書品取引法の財務諸表 ③会社法の連結計算書類 ④会社法の計算書類 |
なお、四半期連結財務諸表(または四半期財務諸表)においては、開示の適時性が要請されていることなどから、株主資本等変動計算書は必要とされていません。ただし、株主資本の金額に著しい変動があった場合に、主な変動自由を注記事項として開示します。(四半期財務諸表に関する会計基準第19項(13)および第25項(11)参照)。 |
(2)純資産の区分について
株主資本等変動計算書は貸借対照表の純資産の部における各項目の変動事由を明らかにするものであり、その表示区分は、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(企業会計基準第5号)および財務諸表等規則に定める純資産の部の表示区分に従うことになります。 純資産の部は、株主資本と、株主資本以外の項目とに区分されます。 |
【(個別)貸借対照表の純資産の部】 I 株主資本 1 資本金 2 資本剰余金 (1)資本準備金 (2)その他資本剰余金 3 利益剰余金 (1)利益準備金 (2)その他利益剰余金 ××積立金 繰越利益剰余金 4 自己株式(株主資本の控除項目) 個別財務諸表では、資本剰余金と利益剰余金について内訳科目を記載します。資本準備金は資本準備金とその他資本剰余金とに区分して記載し、利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金とに区分した上で、その他利益剰余金については、株主総会または取締役会の決議に基づく設定目的を示す科目と、繰越利益剰余金とをもって掲記します |
【連結貸借対照表の純資産の部】 I 株主資本 1 資本金 2 資本剰余金 3 利益剰余金 4 自己株式(株主資本の控除項目) |
株主資本以外の項目で、純資産の部に属する項目は下記の通りです。 |
【(個別)貸借対照表の純資産の部】 II 評価・換算差額等 1 その他有価証券評価差額金 2 繰延ヘッジ損益 3 土地再評価差額金 III 新株予約権 |
【連結貸借対照表の純資産の部】 II その他の包括利益累計額 1 その他有価証券評価差額金 2 繰延ヘッジ損益 3 土地再評価差額金 4 為替換算調整勘定 5 退職給付に係る調整累計額(※) III 新株予約権 IV 少数株主持分 これらその他の包括利益累計額(個別財務諸表では評価・換算差額等)に含まれる項目の金額は、税効果会計を適用し、繰延税金資産または繰延税金負債を控除した金額となります。 |
(3)株主資本の各項目の記載方法
株主資本の各項目は、当期首残高、当期変動額および当期末残高に区分し、当期変動額は変動事由ごとにその金額を表示します。以下は適用指針第6項に例示されている変動事由ですが、このほかに適切な名称をもって記載することもできます。なお、当期純利益(または当期純損失)および剰余金の配当は、必ず記載する変動事由とされています。 |
(1)当期純利益または当期純損失 (2)新株の発行または自己株式の処分 (3)剰余金(その他資本剰余金またはその他利益剰余金)の配当 (4)自己株式の取得 (5)自己株式の消却 (6)企業結合(合併、会社分割、株式交換、株式移転など)による増加または分割型の会社分割による減少(第7項なお書き参照) (7)株主資本の計数の変動 ① 資本金から準備金または剰余金への振替 ② 準備金から資本金または剰余金への振替 ③ 剰余金から資本金または準備金への振替 ④ 剰余金の内訳科目間の振替 (8)連結範囲の変動または持分法の適用範囲の変動(連結子会社または持分法適用会社の増加または減少) |
また、株主資本以外の各項目は、当期首残高、当期変動額および当期末残高に区分し、当期変動額は純額で表示するのが原則ですが、当期変動額について主な変動事由ごとにその金額を表示することもできます。以下は適用指針第11項を参考にした変動事由です。 |
(1)その他の包括利益累計額(個別財務諸表では評価・換算差額等) ①その他有価証券評価差額金 その他有価証券の売却または減損処理による増減 純資産の部に直接計上されたその他有価証券評価差額金の増減 ②繰延ヘッジ損益 ヘッジ対象の損益認識またはヘッジ会計の終了による増減 純資産の部に直接計上された繰延ヘッジ損益の増減 ③為替換算調整勘定(連結財務諸表のみ) 在外連結子会社等の株式の売却による増減 連結範囲の変動に伴う為替換算調整勘定の増減 純資産の部に直接計上された為替換算調整勘定の増減 (2)新株予約権 新株予約権の発行 新株予約権の取得 新株予約権の行使 新株予約権の失効 自己新株予約権の消却 自己新株予約権の処分 (3)少数株主持分 少数株主利益(または少数株主損失) 連結子会社の増加(または減少)による少数株主持分の増減 連結子会社株式の取得(または売却)による持分の増減 連結子会社の増資による少数株主持分の増減 |
(4)会社法計算書類における株主資本等変動計算書の記載方法
会社法計算書類および連結計算書類の株主資本等変動計算書の記載方法は、以下の点を除けば、財務諸表等と同一となります。 ①会社法は株主資本等変動計算書の様式を定めていないため、適用指針の様式に従うことが期待されます。財務諸表等規則及び、連結財務諸表等規則では、純資産の各項目を縦に並べる様式のみとされていますが、適用指針では、純資産の各項目を横に並べる様式も認めており、計算書類ではこちらの様式で作成することもできます。 |
②純資産の区分について、計算書類における純資産の区分は会社計算規則第76条に定められています。これは財務諸表と同様ですが、(個別)計算書類ではその他利益剰余金を株主総会または取締役会の決議に基づく設定目的を示す科目ごとに細分して表示することは求められていません。 |
(5)注記事項について
有価証券報告書における財務諸表では、株主資本等変動計算書に関する注記事項として以下のi)からiv)を記載します。連結財務諸表を作成している場合は、現在の情報開示の中心が連結財務諸表であることから、以下の注記事項は連結財務諸表に記載し、個別財務諸表ではii) 自己株式の種類および総数に関する事項以外は、注記を省略することができます。 |
i)発行済株式の種類および総数に関する事項 a)発行済株式の種類ごとに、当期首および当期末の発行済株式数ならびに当期に増加または減少した発行済株式数 b)発行済株式の種類ごとの変動事由の概要 ii)自己株式の種類および株式数に関する事項 a)自己株式の種類ごとに、当期首および当期末の自己株式数ならびに当期に増加または減少した自己株式数 b)自己株式の種類ごとの変動事由の概要 なお、連結株主資本等変動計算書に開示する自己株式数は以下の合計となります。 ア.親会社が保有する自己株式の株式数 イ.子会社または関連会社が保有する親会社株式または投資会社の株式の株式数のうち、親会社または投資会社の持分に相当する株式数 iii)新株予約権および自己新株予約権に関する事項 a)新株予約権の目的となる株式の種類 b)新株予約権の目的となる株式の数 c)新株予約権の当期末残高 d)自己新株予約権に関する事項 iv)配当に関する事項 a)配当財産が金銭の場合には、株式の種類ごとの配当金の総額、1株当たり配当額、基準日および効力発生日 b)配当財産が金銭以外の場合(分割型の会社分割を含む)には、株式の種類ごとに配当財産の種類ならびに配当財産の帳簿価額(配当の効力発生日における時価をもって純資産を減少させる場合には、当該時価により評価した後の帳簿価額をいう)、1株当たり配当額、基準日および効力発生日 c)基準日が当期に属する配当のうち、配当の効力発生日が翌期となるものについては、配当の原資およびa)またはb)に準ずる事項 |
新株予約権に関する注記事項のうち、新株予約権の目的となる株式の種類及び新株予約権が行使されたものと仮定した場合の増加株式数については、親会社が発行した新株予約権を対象とすることとした。ただし、ストック・オプション会計基準により別途開示されるものは、重複開示を避けるため、連結株主資本等変動計算書の注記事項から除くものとしています。 |
なお、新株予約権の注記対象には、敵対的買収防止策として付与される自社株式オプションは含まれるが、一括法により負債計上されている、いわゆる転換社債型新株予約権付社債は含まれない。 これは、前者については、通常、付与日において費用処理されないため、新株予約権の帳簿価額はゼロとなるが、権利行使された場合の増加株式数が発行済株式総数に対して重要な影響を与える可能性があることを考慮し、純資産の部に帳簿価がゼロの新株予約権が計上されているとみなして注記対象としています。 後者については、株主資本等変動計算書が貸借対照表の純資産の部の変動事由を報告するために作成するものであることから、純資産の部に計上されていない新株予約権については、注記を求めないこととした。 ただし、権利行使された場合の増加株式数が発行済株式総数に対して重要な影響を与える可能性がある場合には、こちらの情報を開示することは有用である。このため、新株予約権相当額が純資産の部に計上されているか否かに関わらず、転換社債型新株予約権付社債など発行済株式に重要な影響を与える可能性があるものについては、注記を行うことを妨げないとされています。 |
新株予約権の目的となるか株式の数を記載するにあたり、新株予約権を行使することができる期間の初日が到来していない新株予約権については、それが明らかになるように記載することとされています。 |
会社法による計算書類の個別注記表、および連結計算書類の連結注記表では、株主資本等変動計算書に関して以下の事項を注記します。財務諸表と同様、連結計算書類を作成している場合は、個別注記表においては以下のii)の事項(自己株式)以外は、注記を省略することができます。 |
【個別注記表】 i) 発行済株式 ii) 自己株式 iii) 配当 iv) 新株予約権 【連結注記表】 i) 発行済株式 ii) 配当 iii) 新株予約権 |
(6)計算書類と財務諸表の注記事項の相違点
①発行済株式 計算書類は当期末の株式数を記載すれば足り、当期首および当期に増加または減少した株式数の記載は求められていません。 |
②自己株式 →発行済株式と同様、当期末の自己株式数を記載すれば足り、当期首および当期に増加または減少した自己株式数の記載は求められていません。 →連結注記表では、自己株式の注記は求められていません。 |
③配当 →1株当たり配当額、基準日および効力発生日は記載が求められていません。 |
④新株予約権 →新株予約権の目的となる株式の数は当期末の数を記載すれば足り、当期首および当期に増加または減少した株式数の記載は求められていません。 →権利行使期間の初日が到来していないものは記載対象から除かれます。 →自己新株予約権については記載が求められていません。 |
(7)まとめ
今回は株主資本等変動計算書の作成の目的、記載内容、注記の内容を見てきました。会社法と金商法では若干記載内容が異なる点がご理解いただければ幸いです。 |
コメントを残す