包括利益について

包括利益とは、ある特定の会計期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。つまり、純資産の変動額のうち、資本取引に該当しないものを包括利益といいます。今回はこの包括利益について解説していきます

(1)包括利益及びその他の包括利益の内訳を表示する目的
(2)包括利益の表示について
(3)包括利益計算書と他の財務諸表の関係
(4)組替調整について
(5)実務上の留意点
(6)包括利益に関する注記
(7)まとめ

(1)包括利益及びその他の包括利益の内訳を表示する目的

はじめに、その他の包括利益とは、包括利益のうち当期純利益に含まれない部分をいいます。具体的には、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額、持分法適用会社に対する持分相当額があります。

包括利益及びその他の包括利益の内訳を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済的事象(資本取引を除く。)により生じた純資産の変動を報告するとともに、その他の包括利益の内訳項目をより明瞭に開示することにあります。

(2)包括利益の表示について

包括利益の表示は、連結財務諸表においては、非支配株主損益調整前当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減算して表示します。なお、当面のあいだ、個別財務諸表及び会社法において包括利益を表示する計算書類の開示は求められていません。

(3)包括利益計算書と他の財務諸表の関係

包括利益は非支配株主損益調整前当期純利益とその他の包括利益から構成されます。少数株主調整前当期純利益の累計が利益剰余金または非支配株主持分として表示されるのに対し、前期以前から獲得してきたその他の包括利益累計は、貸借対照表及び株主資本等変動計算書において、「その他の包括利益累計額」として表示されます。
なお、内訳項目別に見た場合、包括利益計算書でのその他の包括利益は、貸借対照表及び株主資本等変動計算書でのその他の包括利益累計額の前期からの変動額と一致しないことがあります。これは、包括利益計算書では、その他の包括利益に非支配株主持分分も含まれていることや、持分法適用会社のその他の包括利益については区分表示されることが不一致の要因となります。

(4)組替調整について

組替調整とは、当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を言います。つまり、包括利益の組替調整とは、一度「その他の包括利益」として認識したものについて、当期純利益の計算に改めて計上された額をいいます。組替調整額(リサイクリング)となるその他の包括利益には、下記のものがあります。
【その他有価証券評価差額金について】
→当期に計上された売却損益及び減損処理された金額等

→時価のないその他有価証券の売却損益及び減損損失については、組替調整額には該当しないと考えられます。

→外貨建株式については、時価のないものであっても、毎期の外貨換算に伴い、その他の包括利益が計上されることとなるため、売却損益及び減損損失についても、組替調整額に含まれることになると考えられます。
【繰延ヘッジ損益】
→ヘッジ対象に係る損益が認識されたことなどに伴って当期純利益に含められた金額

→ヘッジ手段に係る損益は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べる方法により処理されるのが原則です。ヘッジ対象に係る損益が認識された場合、繰り延べられたヘッジ手段に係る損益がデリバティブ等の損益として計上されるため、組替調整額として開示対象となります。
【為替換算調整勘定】
→子会社に対する持分の減少に伴って取り崩されて当期純利益に含められた金額

→為替換算調整勘定は、在外子会社等に対する投資持分から発生した未実現の為替差損益としての性格を有すると考えられます。持分の変動により、親会社の持ち分比率が減少する場合、減少割合だけ株式売却損益として損益計上されるため、当該取り崩されて損益に含まれた部分が組替調整額として開示対象となります。
【退職給付に係る調整額】
→前期末の未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に償却され当期純利益を構成する項目として損益処理された金額

→当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち未処理のものは、税効果を調整の上、その他包括利益に計上されます。

→未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は平均残存勤務期間内の一定の年数で規則的に損益処理されるため、損益処理された際には、組替調整額として開示対象となります。
【土地再評価差額金について】
→土地再評価差額金とは、「土地の再評価に関する法律」(以下、土地再評価法といいます)に基づき、大会社等の一定の会社が、事業用土地について時価による評価を行い、当該事業用土地の帳簿価額を改定することにより計上されたものをいいます。

→土地再評価差額金の取崩しは組替調整額には該当せず、株主資本等変動計算書において利益剰余金への振替として表示するとされています。ただし、税率変更などに伴い生じる税効果額の変動は、その他の包括利益に含まれるため留意が必要です。

(5)実務上の留意点

①税率変更・回収可能性の変更の場合の取り扱い

法定実効税率の変更又は繰延税金資産の回収可能性の変化により、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正したときは、修正差額がその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金等)に加減して処理されることから、純資産に変動が生じるため、当該変動額はその他の包括利益に含まれるものと考えられます。
②土地再評価差額金について

→土地再評価差額金の売却や減損に伴う取り崩しは、株主資本等変動計算書で直接利益剰余金への振替が行われるため、純資産の変動を伴わないことから、その他の包括利益には含まれません。

→ただし、税率変更による土地再評価差額金の変動は、土地再評価差額金以外のその他の包括利益累計額の税率変更の取り扱いと同様、純資産に変動が生じるため、その他の包括利益に含まれるものと考えられます。

(6)包括利益に関する注記

①税効果に関する注記
→包括利益計算書において、内訳項目の金額を税効果控除後で記載する場合、税効果を一括して加減する方法で記載する場合のいずれで表示したとしても、その他の包括利益の各項目別の税効果の金額を注記します。なお、持分法適用会社のその他の包括利益については被投資会社で税効果を控除しており、この注記の対象外です。
②組替調整の注記
→当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を、組替調整額として、その他の包括利益の内訳項目ごとに注記します。
なお、包括利益に関する注記は、個別財務諸表及び四半期財務諸表においては省略することができます。

(7)まとめ

包括利益の内容から、開示まで、包括利益について一通り解説してきました。包括利益計算書は、有価証券報告書の注記部分がややこしいかと思います。間違いやすい点としては、組替調整の調整を逆方向で行ってしまう間違いがよくあります。この間違いを減らす方法として、今一度組替調整の目的を考えることが重要となります。

組替調整とは、前期以前にその他包括利益として計上したものについて、二重計上を避けるための調整を行うことを目的としています。こちらを考慮すると、組替調整の調整方向を誤ることは減るのではないでしょうか。

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ABOUTこの記事をかいた人

公認会計士です。都内の監査法人に勤務しています。会計/監査/税務に関する情報を配信していきます。