潜在株式調整後1株当たり当期純利益

1株当たり当期純利益は、株主の持つ1株に関する会計期間における企業活動の成果を示すことによって、投資家等の利害関係者の投資意思決定等に有用な情報を与えるために開示されます。また、財務分析上、企業の収益性を測る指標としてよく利用されます。

今回は、1株当た当期純利益の中でも算出が少し難しい、潜在株式調整後1株当たり当期純利益をメインに解説していきます。

(1)1株当たり当期純利益の基本的な算出方法
(2)期中に株式分割、又は株式併合が行われた場合
(3)期中に自己株式を取得、又は消却した場合
(4)潜在株式調整後1株当たり情報について
(5)開示について
(6)まとめ

(1)1株当たり当期純利益の基本的な算出方法

1株当たり当期純利益は、普通株式にかかる当期純利益を普通株式の期中平均株式数で除して算出します。

普通株式の期中平均株式数
① 損益計算書上の当期純利益-普通株主に帰属しない金額(第15項参照)
②普通株式の期中平均発行済株式数-普通株式の期中平均自己株式数
①/②=1株当たり当期純利益となります。
(参照:1株当たり当期純利益に関する会計基準12項)
ここで、上記計算式の項目の内容について確認していきます。

普通株主に帰属しない金額とは、優先配当額、配当優先株式に係る償却(償還)差額などのことをいいます。

普通株式の期中平均発行済株式数の期中平均株式数とは、原則として、日次平均、ただし月次平均も認められます。自己株式についても期中平均株式数をもとに株式数を算出する必要がります。
では、期中に株式分割又は株式併合が行われた場合の期中平均株式数の算出はどうなるのか?こちらについては次の章で見ていきます。

(2)期中に株式分割、又は株式併合が行われた場合

期中に発行済株式数が変化する株式併合又は株式分割が行われた場合、開示書類に表示する財務諸表の最も古い期(有価証券報告書であれば通常前期)の期首に株式併合又は株式分割が行われたと仮定して、普通株式の期中平均株式を計算し、1株当たり当期純利益を算定することになります(会計基準30-2項)。
また、後発事象として当期の貸借対照表日後開示書類の提出日までの間に株式併合又は株式分割が行われた場合でも同様に、表示する財務諸表の最も古い期の期首に当該株式併合又は株式分割が行われたと仮定した上で、1株当たり当期純利益を算出することになります。

(3)期中に自己株式を取得、又は消却した場合

自己株式を取得した場合、1株当たり当期純利益の算定上、取得時点以降の自己株式の増加として期中平均事故株式数に反映させることになります。また、期中に自己株式を消却した場合、発行済株式数と自己株式数が同時に減少するため、1株当たり当期純利益には影響を与えないことから、表示する財務諸表のうち、最も古い期の期首に自己株式の消却が行われたと仮定して普通株式の期中平均株式を計算する必要はないと考えられます。

(4)潜在株式調整後1株当たり情報について

潜在株式とは、その保有者が普通株式を取得することができる権利もしくは普通株式への転換請求権が付された証券又は契約のことであります。この中には、ワラントや転換証券などが含まれます。

ワラントとは保有車が普通株式を取得できる権利をいい、新株予約権などがこれに該当します。

転換証券とは、新株予約権付社債など、普通株式への転換請求権が付された金融負債、及び普通株式以外の株式が含まれます。
潜在株式に係る権利の行使を仮定し、計算式の分母である発行済株式総数が増加した結果、1株当たり当期純利益が下がる場合、当該潜在株式は「希薄化効果を有する」と表現されます。

例えば、ストックオプションとして新株予約権が発行されており、当該新株予約権が行使された場合、発行済株式総数が増加し、1株当たり当期純利益が下がることになります。このように希薄化効果は既存の株主に重要な影響を与えることから、希薄化効果を有する潜在株式が存在する場合、当該潜在株式を調整して1株当たり当期純利益を計算して開示する必要があります。

なお、潜在株式が存在しない場合、潜在株式が存在していても希薄化効果を有しない場合、1株当たり純損失の場合、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の開示は行われません。

では、具体的に希薄化効果があるとはどういう場合かを見ていこうと思います。
ワラント(新株予約権)が希薄化効果を有していると判断するためには、下記要件を満たしているか確認することで判断できます。

【ストックオプションなどで新株予約権が発行されているケースでは、普通株式の期中平均株価が当該新株予約権の基準価額を上回っている場合。】

なお、ワラントの場合は、潜在株式調整後1株当たり当期純利益算定分子の当期純利益の調整額はなく、算定式分母のみを調整します。

また、算定式の分母の普通株式数の算定はどのように行うのか。これは下記の方法で算出します。

【ワラントが期首又は発行時において全て権利行使が行われたと仮定した場合に発行される普通株式数から、期中平均株価によって普通株式の買受を行なったと仮定した普通株式数(権利行使の際の払込金額からワラントが存在する期間の平均株価を除して算定】)を控除して算定します。

なお、希薄化効果を有するワラントは、権利行使期間が開始していない場合でも普通株式数の算定上はすでに権利行使期間が開始したものとして取り扱うことになるため留意が必要です。
転換証券の場合、下記の方法で希薄化効果を有するかを判定するのが効率的かと思います。

【転換社債の利息の支払いが不要になったこと等の影響による、当期純利益の調整額を転換証券の発行によって増加する株式数で除した金額が1株当たり当期純利益を下回る場合は、希薄化効果を有すると判断できる】

なお、転換証券の場合、分子の調整額は、転換社債などの支払利息額、社債を割引発行した場合の償却原価法による当期償却額、利払いにかかる事務手数料の費用の合計額から、当該金額への課税見込額を控除した金額が調整額となります。

他方、算定式分子の普通株式増加数は、期首時点において存在する転換証券が全て期首に転換されたと仮定した場合に発行される普通株式数および、期中発行された転換社債が全て発行時に転換されたと仮定した場合に発行される普通株式の合計によって算定されます。

なお、転換請求期間が期中に満了したものや、期中に償還したもの、期中に転換されたものについても、期首から当該期間満了時、又は償還時、転換時までの期間に応じた普通株式数を算定することになります。当該算定は、原則として日数に応じて行うことになりますが、月数に応じて算定する方法を採用することもできます。

(5)開示について

有価証券報告書における開示箇所および開示内容は下記の通りです。

【第1部【企業情報】第1【企業の状況】1【主要な経営指標等の推移】連結経営指標等/提出会社の経営指標等】
・1株当たり純資産額
・1株当たり当期純利益額又は純損失金額
・潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額
【第一部【企業情報】第5【経理の状況】【連結財務諸表等】1/【財務諸表等】【注記表】(1株当たり情報)】
・1株当たり純資産額(及び算定上の基礎)
・1株当たり当期純利益金額又は純損失金額およびその算定上の基礎
・潜在株式調整後1株当たり当期純利益の金額およびその算定上の基礎

(6)まとめ

1株当たり情報について、1株当たり当期純利益や1株当たり総資産の分子の金額については間違いが発生することはあまりないかと思います。これに対し、分母の株式数については、比較的誤りが発生することが多い印象です。誤りが発生する箇所としては当期に新規の株式を発行した場合や、自己株式を取得した場合の株式数を誤っていることが多いです。

また、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算出についても、転換証券は分子と分母の両方を調整する可能性があるため、計算の際は注意ください。

これで潜在株式調整後当期純利益1株当たり当期純利益の解説は終わります。

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公認会計士です。都内の監査法人に勤務しています。会計/監査/税務に関する情報を配信していきます。