金融商品時価注記を行う目的は、時価等の開示情報の充実を図り、従来の注記による有価証券やデリバティブ取引についての情報の開示が、金銭債権や金銭債務等の金融商品全般に範囲が拡大されたため、各項目に関する定性的情報及び定量的情報の開示項目の拡大することにあります。今回は、金融商品時価中期の際の留意点等を解説していきます。 |
目次
(1)開示対象となる金融商品の範囲
(2)定量的情報、定性的情報の重要性について
(3)定性的情報の開示のポイント
(4)勘定科目ごとの時価の算定方法
(5)まとめ
(1)開示対象となる金融商品の範囲
従来の時価等の開示は、有価証券及びデリバティブ取引について行われてきました。これに対し、改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」では、原則として全ての金融商品に拡大されています。 このため、現金及び預金、受取手形及び売掛金、貸付金、支払手形及び買掛金、借入金、リース債務等の幅広い項目が対象となります。 |
ただし、次のものは開示対象から除かれます。 ①改正会計基準の適用対象外となる項目(保険契約、退職給付債務及び年金資産など) ②純資産の部に計上されるもの(発行者における新株予約権など) ③重要性が乏しいもの |
重要性が乏しいものとは、定性的情報・定量的情報ともに、重要性が乏しいものは注記を省略できるとしています。この重要性の考え方について詳しく見ていきましょう。 |
(2)定量的情報、定性的情報の重要性について
【定性的情報の重要性について】 金融商品の時価注記の開示の判断における重要性と、貸借対照表に独立揭記する重要性は必ずしも同じではありません。ただし、適用指針では、原則として貸借対照表の科目ごとに一定の事項を開示するとされており、退職対照表の「その他」に含められている項目の開示は任意とされています。これは、財務諸表との関連を明確にするという観点とともに、有用性を考慮したものと考えられます。 連結財務諸表に独立揭記される表示科目は、原則として時価の開示が必要になると考えられていることから、連結貸借対照表の独立揭記基準(総資産の5%)を判断基準の一つとして使用します。なお、有価証券とデリバティブ取引については貸借対照表に独立揭記されていない場合でも、時価の開示が求められます。 |
【定性的情報の重要性について】 定性的情報と定量的情報は、両者の記載があって十分な意味を持つことから、定性的情報は、定量的情報の記載がされている範囲について記載することになると考えられます。 |
【開示における重要性】 計算規則では貸借対照表に記載する科目についての基準はありません。また、計算規則は、有価証券報告書提出会社だけでなく、会計監査人設置会社を対象としていることから、会社の実績に応じて必要な限度での開示を可能とするため、財務諸表規則の注記事項に比べて総括的なものになります。そこで、時価等の開示の重要性については会社の実情や科目の実績に応じて判断する必要があります。 |
(3)定性的情報・定量的情報の開示のポイント
定性的情報においては、次の事項を記載することが求められています。 ①金融商品に対する取り込み ②金融商品の内容及びそのリスク ③金融商品にかかるリスク管理体制 ④金融商品の時価等に関する事項について補足情報 |
定量的情報としては、次の事項の記載が求められます。 ①金融商品について、時価、貸借対照表計上額、時価の算定方法 ②有価証券については、保有目的区分ごとの時価、評価差額 ③デリバティブ取引については、種類ごとの契約額、時価等 ④金銭債権・満期のある有価証券につき償還予定額を一定の期間に区分した金額 ⑤社債等の有利子負債につき返済予定額を一定の期間に区分した金額 ⑥リスクフルーレート等で割り引いた金銭債務の金額(任意開示) |
時価とは公正な評価額をいい、これには、市場により形成される取引価格、気配または指標その他相場に基づく価額をいいます。また、市場価格がない場合には、合理的に算定された価格を公正評価額とします。ここで、合理的に算定された価額の算定方法にはどのような方法があるのでしょうか。 |
合理的に算定された価額の算定方法としては、下記の3つの方法があります。 ①取引所等から公表されている類似の金融資産の市場価格に、利子率、満期日、信用リスク及びその他の変動要因を調整する方法 ②対象金融資産から発生する将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を算定する方法 ③一般に広く普及している理論値モデル |
(4)勘定科目ごとの時価の算定方法
今回は全ての科目を網羅的に解説するのではなく、注意が必要な点を重点的に解説していきます。 |
【売掛金・受取手形】 これらの科目は、短期間で決済することが想定されるため、時価は帳簿価額に等しいことから、帳簿価額によることができます。ただし、短期間とはどれくらいの期間かを確認する必要がります。ここで、短期間とは概ね3ヶ月以内に決済されるものとされております。ただし、6ヶ月から1年後のような場合でも、その時価と帳簿価額の差に重要性があるかを判断し、重要性がない場合は、短期間として取り扱うことができます。また、逆に、信用リスクの関係で、重要性が高いものについては、短期間でも簿価を時価と見なせない場合があります。 |
【敷金・保証金】 敷金・保証金は他の企業から現金もしくはその他の金融資産を受け取るまたは引き渡す契約上の権利に該当する場合は、原則として時価注記の対象となります。一方、将来返還されない差入保証金、返還されない敷金などは、償却により費用となる資産であり、金融資産でないことから時価等の開示対象から除外されます。 |
【有価証券】 有価証券は、当該科目名で揭記されない場合も注記の対象となります。また、個別財務諸表場で注記を行う場合は、子会社株式と関連会社株式に区分して時価等を注記します。 |
【デリバティブ】 原則として、取引所価格または取引金融機関から提示された価格によって時価を算定します。開示の際は、ヘッジ会計が適用されているものと適用されていないものに分けて、時価を開示することが求められています。 |
【時価を把握することが困難なもの】 時価を把握することが極めて困難と認められるため、時価を注記していない金融商品については、当該金融商品の概要、貸借対処表計上額及び理由を注記することが求められています。 |
(5)まとめ
金融商品時価注記の留意点として、開示の対象が全ての金融資産に拡大されたため、開示対象科目が企業ごとに異なるため、開示対象とすべき科目を網羅的に把握できているかを確認する点があります。また、開示対象の科目を特定したのちに、割引率が適切に設定されているかを確認する必要があります。 その後、例えば将来キャシュフローを割り引くことで時価を算定する場合は、将来キャッシュフローの見積もりが適切に行われているかも確認する必要があります。 このように、金融書品時価注記は画一的な回答がない点と、見積もりの要素が含まれているため、開示を検討する際は十分にご注意ください。 |
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