圧縮記帳について

圧縮記帳とは、税務上の課税の繰り延べを行うための処理であり、その年度の税負担を軽減する効果を持つ方法です。今回はこの圧縮記帳を行う目的と、実際に圧縮記帳の対象となる取引について解説していこうと思います。

(1)圧縮記帳とは
(2)圧縮記帳の経理方法
(3)圧縮記帳の対象となる取引について
(4)特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳
(5)買換期間の延長申請
(6)まとめ

(1)圧縮記帳とは

圧縮記帳とは、税法上の規定であり、有形固定資産の取得に際して収益(補助金等)が発生した場合、その取得価額を減額(圧縮)することにより圧縮損を計上し、収益金額と圧縮損とを相殺してその年度の税負担を軽減する効果をもたせるものです。
例えば有形固定資産を購入するために国からの補助金があった場合、国庫補助金受贈益等の収益が発生します。この収益に対して税金がかかると、補助金の効果が薄れてしまいます。

そこで、圧縮記帳により、取得価額を減額するための圧縮損を計上することで、課税される税金を将来に繰り延べます。ここで注意すべき点は、圧縮損が計上された初年度は税負担率が少なくなりますが、その反面、有形固定資産取得価額が減額されるため、減価償却費が少なくなり、その後の各年度の税負担額が増加することとなります。そのため圧縮記帳は課税の繰り延べに過ぎず、免税制度ではない点に注意が必要です。

(2)圧縮記帳の経理方法

圧縮記帳には、直接減額方式(損金経理により帳簿価額を直接減額する方法)と、積立金方式(確定決算または決算確定の日までに剰余金の処分により圧縮積立金を積み立てる方法)とがあります。会計上は、取得原価主義(資産を評価するに際し、取得した時点で支払った対価をもとに評価する会計)の観点からは、積立金方式による会計処理が望ましいと考えられます。
しかし、企業会計原則注解(注24)には下記のように規定されています。

国庫補助金等によって取得した資産について
国庫補助金、工事負担金等で取得した資産については、国庫補助金等に相当する金額をその取得原価から控除することができる。
この場合においては、貸借対照表の表示は、次のいずれかの方法によるものとする。
(1)取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除する形式で記載する方法
(2) 取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除した残額のみを記載し、当該国庫補助金等の金額を注記する方法
ここから、直接減額奉仕にによることができる旨が規定されています。ただし、圧縮記帳を適用できるのは、固定資産の圧縮記帳に関する税法の規定を適用して行う会計処理であることが前提とされています。
減価償却資産の圧縮記帳が積立金方式で処理された場合には、減価償却費の形状を通じて繰延税金負債と圧縮積立額が取り崩されることになります。すなわち、会計上、毎年減価償却を行うことにより、税務上の簿価との差異が縮んでいくため、繰延税金負債と圧縮積立金を取り崩すことになります。
積立金方式の場合、会計上の簿価と税務上の簿価に差異が生じます。これは、税務上は圧縮記帳について直接減額方式を取るためです。この会計上の簿価と税務上の簿価の差が、将来加算一時差異となり、繰延税金負債が生じます。この繰延税金負債は、毎年の減価償却を通じて解消していきます。

(3)圧縮記帳の対象となる取引について

国税庁が公表する、措置法上の圧縮記帳には下記の項目が例示されています。

・収用等があったときの課税の特例
・特定資産を買換えた場合の圧縮記帳
・特定資産の買換えを行った場合の圧縮記帳の対象となる資産
・既成市街地等の区域内からその区域外への買換えの場合
・特定資産を買い換えた場合の圧縮限度の計算
・譲渡した事業年度に買換資産の取得ができないとき
・買換期間の延長申請
・平成21年及び平成22年に先行取得した土地等に係る圧縮記帳
・既成市街地等の範囲
詳細は国税庁の下記HPに記載されておりますので、下記リンクもご参照ください。

今回はこの中から数点をピックアップして解説していきます。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/houji319.htm

(5)特定資産を買い換えた場合の圧縮記帳

法人が、昭和45年4月1日から平成32年(2020年)3月31日までの間に、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合又は供する見込みである場合に、買換資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができます。
なお、譲渡した事業年度に買換資産の取得ができない時の取り扱いについても規定されております。
特定資産の買換えの特例の対象となる土地や建物の譲渡をした日を含む事業年度内に一定の買換資産の取得ができなかった場合において、原則として、その譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日以後1年を経過する日までに一定の買換資産を取得し、その取得の日から1年以内に事業の用に供する見込みであるときは、特別勘定の設定をすることができます。
この場合、譲渡した日を含む事業年度の確定した決算において、譲渡資産の譲渡対価の額のうち買換資産の取得に充てようとする額に差益割合を掛けた金額の80/100に相当する金額を特別勘定として経理することが認められています。この特別勘定に繰り入れられた金額は、損金の額に算入されるので、譲渡益と一部相殺されます。
ここで、差益割合とは、下記の計算式で算出します。

差益割合={譲渡資産の譲渡価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡に要した経費)}/譲渡資産の譲渡価額

差益割合は、圧縮限度額を算出する際に使用します。なお、圧縮限度額は下記の計算式で算出します。

圧縮限度額=買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡価額とのいずれか少ない金額×差益割合×圧縮割合(80%)

長期所有資産の買換えについては、譲渡資産が地域再生法に規定する集中地域以外の地域内にあり、かつ、買換資産が次の地域内にある場合には、それぞれ次の割合となります。(譲渡と取得がいずれも平成27年8月10日以後に行われた場合に限ります。)
1 東京都の特別区の存する区域 70/100
2  地域再生法の集中地域(1の区域を除きます) 75/100
譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日以後1年を経過する日までの間に買換資産を取得して事業の用に供したときには、その買換資産について圧縮記帳が認められます。

この場合、特別勘定の金額のうち、買換資産の圧縮基礎取得価額に差益割合を掛けた金額の80%に相当する金額を益金の額に算入しなければなりません。

なお、特別勘定を設定する場合には、確定申告書等に特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(別表13(5))や取得をする見込みである買換資産の種類及び取得予定年月日などを記載した書類(「特定の資産の譲渡に伴う特別勘定を設けた場合の取得予定資産の明細書」)を添付することが必要です。
ここで、再度今回のテーマの、特定資産の買換えについて見ていきます。
圧縮記帳の対象となる買換えは、例えば次のような買換えがあります。

(1)既成市街地等の区域内から区域外への買換え
(2)長期所有資産の買換え
圧縮記帳を受けるためには、下記の手続きを行う必要があります。

確定申告書に特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(別表13(5))など一定の書類を添付する。

(6)買換期間の延長申請

特定資産の買換えにより特別勘定を設けた法人は、その特定の資産を譲渡した日を含む事業年度(以下「譲渡事業年度」といいます。)の翌事業年度開始の日から1年以内に買換資産を取得することが必要です。
 ただし、やむを得ない事情により、その翌事業年度の開始の日から1年以内に買換資産を取得することが困難な法人は、譲渡事業年度終了の日の翌日から2か月以内に納税地を所轄する税務署長に「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」を提出し、その承認を受けた場合には、翌事業年度開始の日から3年以内の税務署長が認定した日まで買換期間を延長することができます。
なお、やむを得ない理由としては、次のような事情をいいます。

(1) 工場などの敷地とする宅地の造成及び工場などの建設や移転にかかる期間が通常1年を超えると認められること。
(2) 法令の規制等によりその取得に関する計画の変更をしなければならなくなったこと。
(3) 売主その他の関係者との交渉が長引き、簡単に資産の取得ができないこと。
(4) 上記(1)から(3)に準じた特別な事情があること。

(7)まとめ

今回は圧縮記帳の会計処理について解説してきました。今回の解説は、圧縮記帳と特定資産の買換えをメインに解説してきました。機会があれば、別の論点いついても解説していこうと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

公認会計士です。都内の監査法人に勤務しています。会計/監査/税務に関する情報を配信していきます。